[インドネシア] 環境承認プロセスの簡素化:新政令第22号の概要と影響

ESG

1. はじめに

インドネシア政府は、環境関連の許認可手続きを効率化し、ビジネス環境の改善を目指して、2024年11月に「事業許可の実施を支援するための中央当局から州および県・市への環境承認プロセスの委任に関する2024年政令第22号」を制定しました。
この政令は、環境承認(Persetujuan Lingkungan)の取得プロセスを簡素化し、企業が環境規制を遵守しやすくすることを目的としています。

2. 環境承認の重要性

環境承認は、事業活動が環境に与える影響を評価し、適切な管理と監視を確保するための重要な手続となります。
この承認は、事業許可を取得する前提条件となっており、企業が環境責任を果たすための基盤となります。

3. 権限の委任とその背景

従来、環境承認の権限は、中央政府、州政府、地方自治体(県及び市)など、事業の規模や所在地に応じて異なる機関に分散していました。
この状況下で、業務負担の不均衡や手続の遅延を招くことが往々にあったことは現地で事業を運営されている方であれば容易に推察できるかと思われます。
例えば、2021年以降、中央政府が約300件の環境影響評価(AMDAL)を処理したのに対し、地方当局が処理したのは合計約200件にとどまります。
このような差異は、システムの効率化の必要性を示しています。

この課題に対応するため、2021年の「環境保護・管理の実施に関する政府規則第22号」は、中央政府が特定の環境承認の責任を州および地方政府に委任する権限を付与しました。
今回の2024年政令第22号は、この枠組みを具体的に実施するための手続と要件を定めています。

4. 委任される主な権限

新たな政令により、以下の3つの主要な環境承認の権限が地方政府に委任されます:

(1) 新規環境承認の発行
新しい事業活動に対する初回の承認で、プロジェクトの規模に応じて、AMDALや環境管理・監視計画(RKL-RPL)、または環境管理・監視努力(UKL-UPL)のレビューが行われます。

(2) 既存の承認の修正
既存の環境承認に対する修正を、新たなAMDALやUKL-UPLを必要とせずに行うことが可能になります。

(3) 技術的承認の付与
廃水や排出ガスの品質基準、危険廃棄物の保管に関する技術的な詳細に関する承認が含まれます。

これらの委任には、行政手続の確認や、AMDALやUKL-UPLの環境文書評価に関する推奨事項の発行、環境適合性決定(SKKL)や環境管理コミットメント承認(PKPLH)の発行などの業務も含まれます。

5. 期待される効果、リスクと課題

この権限委任により、環境承認プロセスの効率化が期待され、企業は必要な許可をより迅速に取得できるようになります。
特に、地方政府が地域の特性やニーズに応じて柔軟に対応できるため、地域経済の活性化にも寄与すると考えられます。
一方で、新政令第22号の施行により、環境承認に関する手続が分権化され、地方政府により多くの権限が移譲されることになりますが、この移行に伴い、企業側が留意すべきリスクや課題もあります。

(1) 地方政府ごとの対応のばらつき
地方政府ごとに環境承認に関する経験値や能力が異なるため、申請の処理スピードや適用基準のばらつきが生じる可能性があります。
インドネシアの各州・県・市の行政能力には大きな差があり、一部の地方政府では専門知識や人員の不足により、手続が遅延するリスクも考えられます。

(2) 汚職・不正のリスク
インドネシアでは、地方行政における汚職が長年の課題とされていることは皆さんすでにご承知のとおりです。
環境承認プロセスが地方政府に委任されることで、一部の地方では不透明な許認可プロセスが発生する可能性が指摘されています。
特に、AMDALやSKKLの承認プロセスにおいて、不適切な行政介入や賄賂の問題が発生する可能性があります。

(3) 法令の解釈と適用の不一致
環境関連法令の運用は中央政府のガイドラインに基づいて行われるべきですが、実際の適用において地方政府ごとに異なる解釈がなされる可能性があります。
これにより、企業が異なる地方で事業を展開する際、環境承認手続に関するルールが統一されておらず、不確実性が増す恐れがあります。

(4) 地方政府の負担増
中央政府から地方政府への権限移譲が行われる一方で、地方政府側の対応能力が十分でない場合、申請処理の遅延や承認プロセスの混乱が生じる可能性があります。
特に、新規事業を展開しようとする企業にとって、許認可の遅延は事業開始スケジュールに大きな影響を与えるため、今後の運用状況を注視する必要があります。

6. 日本企業が取るべき対策

これらの課題を踏まえ、インドネシアで事業を展開する日本企業は、環境承認プロセスの変更に適応するため、以下の対策を講じることをお勧めします。

(1) 事前の情報収集と準備
環境承認プロセスの変更に関する詳細な情報を収集し、自社の事業にどのような影響があるのかを事前に分析することが重要となります。
特に、事業を展開する地域の地方政府が環境承認に関してどのような手続を採用しているのかを確認する必要があります。

(2) 現地の専門家との連携
インドネシアの環境法規制に精通した弁護士やコンサルタントを活用し、最新の動向を把握することが効果的です。
現地の専門家を通じて、地方政府との円滑な交渉を行い、必要な書類や手続について正確な情報を得ることができます。

(3) 地方政府との関係構築
地方政府との良好な関係を築くことで、承認プロセスをスムーズに進めることが可能になります。
定期的な対話や意見交換を通じて、地方政府の規制当局と信頼関係を構築することが望まれます。

(4) 環境コンプライアンスの強化
環境規制の遵守を徹底し、必要な環境対策を事前に講じることで、環境承認プロセスでの問題を最小限に抑えることができます。
例えば、AMDALやRKL-RPLの作成において、最新の基準を満たすよう努めることが求められます。

(5) 事業計画の柔軟性を確保
環境承認手続の遅延や不確実性をあらかじめ考慮し、事業スケジュールに一定の余裕を持たせることが重要です。
特に、新規プロジェクトを立ち上げる際には、環境承認取得までの期間を慎重に見積もる必要があります。

7. まとめ

インドネシアの新政令第22号により、環境承認のプロセスは中央政府から地方政府へと権限が移譲され、環境許認可の手続が分権化されることになりました。
これにより、企業にとっては環境承認取得のスピードアップが期待される一方で、地方政府ごとの対応のばらつきや、行政能力の差異による課題も懸念されています。
日本企業としては、環境規制の遵守を徹底し、地方政府との関係を強化しながら、適切な環境コンプライアンス対策を講じることが求められます。また、現地の専門家との連携を深め、常に最新の法規制の動向を把握することで、環境承認プロセスの変化に柔軟に対応していくことが重要です。

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