[インドネシア] 2025年エネルギー鉱物資源省規則第5号(2025年MEMR規則第5号)の概要

ESG

はじめに

今回はインドネシアの再生可能エネルギーに関する新たな規制について説明していきます。
2025年3月4日に発効した「2025年エネルギー鉱物資源省規則第5号」(PERATURAN MENTERI ENERGI DAN SUMBER DAYA MINERAL REPUBLIK INDONESIA NOMOR 5 TAHUN 2025、PM ESDM 5/2025。以下「本規則」といいます。)は、その最新の動きの一環として、再生可能エネルギー発電所の電力売買契約(Perjanjian Jual Beli Listrik、インドネシア語の略称では「PJBL」ですが、業界で一般的に使われる「PPA」を使います。)に関して規制したものとなります。
この規制、すでに一部から反対意見が出されているなど、今後反響がありそうですので、以下概要や今後の影響などを説明します。

筆者の理解ですので実際には正しくないかもしれませんが、本規則のような規則が設けられる実際の背景は以下のようなものと思われます。
インドネシアにおいては、政府として、再生可能エネルギーを推進していくという大きな枠組み自体は所与のものとして進めていく必要がある、というのが大きな要請になっているものと考えられます。
この方向性によれば、国有の電力会社が小売を独占している状況であるとはいえ、コーポレートPPAはバーチャルのみならずフィジカルも進めていくという流れになりがちです。この方向、特にフィジカルPPAを進めていくという方向は、手数料なり託送料を高く設定しておかないと、PLN((Perusahaan Terbatas Perusahaan Listrik Negara (Perusahaan Perseroan))の収益を圧迫していく要素になり得ます。
一方で、PLNの権益や収益を確保し、さらにいえば組織自体を存続させる必要もあります。
インドネシア政府はこの2つの要請をどのように調整していくのか、という難しい舵取りを迫られているように見えます。
このあたりの調整の様子が、以下で説明する保証金の制度などに垣間見えているように感じます。

本規則の基本情報

本規則は、再生可能エネルギーの普及促進を目的として制定され、発電事業者とPLNとの契約に関する基準について規定しています。
特に、価格調整や契約期間などの重要な要素が規定されており、事業者のリスクを軽減しつつ、電力供給の安定性を向上させる狙いがあります。

正式名称
インドネシア共和国エネルギー鉱物資源省規則第5号(2025年) – 再生可能エネルギー源を利用する発電所からの電力売買契約(PJBL)に関するガイドライン(PERATURAN MENTERI ENERGI DAN SUMBER DAYA MINERAL REPUBLIK INDONESIA NOMOR 5 TAHUN 2025)
発効日
2025年3月4日
廃止される規則
2017年省令10号を含む関連規則

対象となる再生可能エネルギー

本規則では、対象となる再生可能エネルギーの範囲が規定されています。
従来から対象とされている再生可能エネルギーに加え、新たに廃棄物発電が追加され、より幅広いエネルギー源の活用が推進されることとなりました。

既存の対象エネルギー

– 地熱発電
– 水力発電
– 太陽光発電
– 風力発電
– バイオマス発電
– バイオガス発電
– 海洋エネルギー発電
– バイオ燃料発電

新規追加:廃棄物発電(ゴミ発電)

本規則では、「ごみ発電」(Waste-to-Energy)が正式に再生可能エネルギーの対象に追加されました(第3条(2))。
これは、都市部の廃棄物処理問題とエネルギー供給の課題を同時に解決する狙いがあります。

PPAの主要条件

PPAの内容

本規則では、PPAに関する詳細な基準を設定しています。
これにより、発電事業者と電力会社であるPLNの契約内容が標準化され、契約交渉の透明性が向上することが期待されます。
PPA関連で規定されている内容をいくつか取り上げると以下のとおりです。

項目 内容 条文
契約期間 最長30年(CODを起点)、延長可能 第5条
価格調整 為替変動・税制変更対応 第28条
国内製品義務 現行法に準拠(最低調達率明示) 第33条
環境価値 カーボンクレジット等の環境価値の帰属規定 第34条

本規則4条1項によれば、PPAにおいて規定する必要がある事項は以下のとおりとされています。

a. PPAの期間
b. 発電事業者とPLNの権利と義務
c. リスクの配分
d. プロジェクトの履行保証
e. 試運転とCOD
f. 電力設備の認証
g. 電力売買取引
h. 電力系統の運用管理
i. 発電所の性能
j. PPAの終了
k. 権利の譲渡
l. 価格と価格調整の条件
m. 紛争解決
n. 不可抗力
o. 国内製品の使用
p. 環境属性または炭素の経済的価値
q. リファイナンス
r. PPAの言語

国内産品の使用や言語に関する規定など、これまでの政府が規定してきたものについてのこだわりが伺えます。

環境価値について

上記のとおり、本規則34条では環境価値の帰属に関して規定されており、関心がある方も多いと思いますので、この規定について説明します。
本条では、再生可能エネルギー発電で生じる環境価値の権利帰属を明確化しています。
対象となっている権利は以下のとおりです。
日本語名称 略称(日) 英語名称 略称(英) インドネシア語名称 略称(ID)
カーボンクレジット CC Carbon Credits CC Kredit Karbon KK
再生可能エネルギー証明書 REC Renewable Energy Certificate REC Sertifikat EBT SET
グリーンラベル GL Green Label GL Label Hijau LH
その他の取引可能権利 OTR Other Tradable Rights OTR Hak Yang Diperdagangkan HYD
温室効果ガス削減利益 GHG-RB Greenhouse Gas Reduction Benefits GHG-RB Manfaat Pengurangan Emisi MPE

環境価値の帰属に関する原則は、本規則34条2項から4項に規定されており、以下のとおりです。

法規制が優先
既存法(例:炭素経済価値法第12/2023号)が最優先
契約自由
未整備分野はPPAによる当事者の合意に基づく
柔軟性確保
新規環境権類型にも対応可能な仕組みとする

発電事業者の義務

本規則では、発電事業者が遵守すべき義務が規定されています。
再エネプロジェクトの安定した運営を保証するための保証金制度や性能維持義務が強調されています。
この保証金制度については発電事業者にとっても大きな影響がありそうです。

保証金の提供(第10条)
総事業費の最大10%の保証金をPLNに供託
性能維持義務(第22〜24条)
Performance Ratio(PR)が一定基準を下回った場合のペナルティ
蓄電池の更新義務(第40条)
寿命到来時には新しいバッテリーへの交換が必須

PLNの義務

PLNもまた、発電事業者と対等な義務を負います。
具体的には以下のとおりです。
系統接続設備の保守義務(8条2項)
・PPAの期間中、PPA所定のとおり、発電事業者が発電した電力を購入すること
・PPAに基づいて適用される猶予期間(Grace Period)に基づいて、PLNの特定の状況による擬似送電のために吸収されなかった電力を支払うこと
・発電事業者からの電力受入のために、電力系統設備の信頼性を維持し、保全すること
再生可能エネルギーの優先接続義務(21条2項)
PLNは、系統運用計画および実行においては、再生可能エネルギー発電が優先され、系統運用規定および配電規定の遵守状況が考慮される旨規定されています。

本規則施行の影響と対応

本規則には移行規定があり(48条〜50条)、既存のPPAについては基本的には影響はありませんが、当該PPAの期間経過後に更新される場合、本規則が適用されます。
このため、発電事業者がPPAの更新を前提にしている場合には、発電事業者の事業スキームや収益モデルに影響が及ぶ可能性があります。

本規則は、再生可能エネルギー導入の加速と投資環境の整備を目的とした包括的な規則です。
具体的には、再生可能エネルギーの接続優遇やカーボンクレジットの取扱いの明確化については要注目といえます。
また、今後PPAを締結する予定の発電事業者や、既存のPPAを今後更新することを検討している発電事業者にとっては本規則の遵守が必須になるため、本規則については十分に理解しておく必要があります。

付録:条文の概要

以下、本規則について条文の順序に従って整理した内容を記載します。
上記の本文ではPPAなど業界で通常使われる略称を使っていますが、以下ではインドネシア語の略称を使用しています。

定義 (Pasal 1)
重要な用語の定義が明確化されています。例えば、
再生可能エネルギー (Energi Terbarukan): 再生可能なエネルギー源から得られるエネルギー。
発電事業者 (Pengembang Pembangkit Listrik – PPL): PT PLNと電力売買契約を締結する電力供給事業者。
電力売買契約 (Perjanjian Jual Beli Tenaga Listrik – PJBL): PPLとPT PLN間の電力売買契約。
商業運転開始日 (Tanggal Operasi Komersial – COD): 発電所がPT PLNの電力系統への電力供給を開始する日。
稼働率 (Faktor Ketersediaan – AF): PT PLNが引き取った、または引き取られたとみなされる電力量と、発電所の最大発電可能量との比率。
契約電力量 (Energi yang Diperjanjikan – CE): PJBLで合意された期間に発電されるべき電力量。
ディスパッチャー (Dispatcher): PT PLNの系統運用制御部門。
みなし送電 (Deemed Dispatch): PPLの発電所が稼働しているにもかかわらず、特定の条件下でPT PLNの系統に電力が送電されたとみなされる状態。
みなしコミッショニング (Deemed Commissioning): PPLの発電所が、PJBLで合意された条件に従って試験およびコミッショニングを実施したとみなされる状態。
遅延損害金 (Liquidated Damage): CODの遅延に対する違約金。

適用範囲 (Pasal 3)
本規則は、以下の再生可能エネルギー源を利用する発電所に適用されます。
地熱
水力
太陽光発電 (PV)
風力
バイオマス
バイオガス
海洋エネルギー
バイオ燃料
廃棄物由来
太陽光発電、風力、海洋エネルギー発電所は、バッテリーまたはその他のエネルギー貯蔵設備を併設できることが明記されています。

電力売買契約(PJBL)の主要条項 (Pasal 4)
PJBLに少なくとも含まれるべき主要な条項が規定されています。
契約期間
PPLとPT PLNの権利と義務
リスク配分
プロジェクト実行保証
コミッショニングとCOD
電力設備の認証
電力売買取引
電力系統の運用制御
発電所の性能
PJBLの終了
権利譲渡
価格と価格調整の条件
紛争解決
不可抗力
国内製品の使用
環境属性または炭素クレジット
リファイナンス
PJBLの言語
余剰電力の買取の場合、プロジェクト実行保証、コミッショニングとCOD、権利譲渡、国内製品の使用に関する規定は適用除外となります。

契約期間 (Pasal 5)
PJBLの契約期間は、CODから最長30年とし、初期投資費用を考慮せずに延長が可能です。契約期間はPT PLNがプロジェクトの経済性や発電所の種類を考慮して決定します。延長時の電力買取価格は、契約開始後10年目以降の最高基準価格(staging 2)を参照します。

建設・運営形態 (Pasal 6)
PJBLにおける発電所の建設・運営形態は、原則としてBuild-Own-Operate (BOO) モデルですが、当事者間の合意に基づき、発電所の種類を考慮して他の形態も可能です。

リスク配分 (Pasal 9)
PPLとPT PLNがそれぞれ負担するリスクが明示されています。
PT PLN負担リスク: 電力需要、送配電網の準備状況と能力、為替レートの変動。
PPL負担リスク: 用地取得、許認可(環境許認可、空間利用適合性を含む)、建設スケジュールの遅延、通貨の交換可能性、発電所の性能、バイオマス、バイオガス、バイオ燃料、地熱発電所の燃料の入手可能性とコスト。

プロジェクト実行保証 (Pasal 10)
PPLがPT PLNに提供するプロジェクト実行保証は、発電所の総プロジェクト費用の最大10%と定められています。

商業運転開始 (COD) の遅延と遅延損害金 (Pasal 14)
PPLの発電所がCODを遅延し、かつみなしコミッショニングの状態にない場合、PJBLに基づき遅延損害金が課されます。遅延損害金は遅延日数に応じて計算され、賦課期間は最長180暦日です。一方、PT PLN側の特定の理由によりCODが遅延し、PPLの発電所がみなしコミッショニングの状態にある場合、PPLはみなしCODに基づき電力料金の支払いを受ける権利を有します。

電力売買取引 (Pasal 16-19)
PT PLNは、PJBLに規定された契約電力量(CE)または稼働率(AF)に基づいて電力を購入する義務があります。契約量を超える電力の買取については、一定の条件下で(最大設備容量の範囲内で、かつ最大80%の価格で)可能です。また、発電所の最適化のため、設備容量を超える電力も、最低価格かつ系統の需要に応じて(CEまたはAFの最大30%まで)買い取ることができます。

みなし送電が発生した場合、PT PLNはPJBLに定められた猶予期間に基づいて、送電されなかった電力に対して支払う義務があります。PPLの送電量が契約量を下回った場合(みなし送電による場合を除く)、PPLはPT PLNに対してペナルティを支払う義務があります。

電力買取の支払いは、原則としてインドネシアルピア建てで行われ、支払日の前日のジャカルタ銀行間スポットドルレート(JISDOR)が適用されます。

系統運用制御 (Pasal 20-21)
電力系統の信頼性を確保するため、ディスパッチャーは系統運用規定(Grid Code)および配電規定(Distribution Code)に従って発電所の運転を調整します。系統運用計画および実行においては、再生可能エネルギー発電が優先され、系統運用規定および配電規定の遵守状況が考慮されます。また、PJBLでPT PLNとPPLの間で合意された運転調整に関する事項も考慮されます。

発電所の性能 (Pasal 22-24)
発電所の性能は、稼働率(AF)、契約電力量(CE)、性能比率(Performance Ratio)、その他の技術的基準に基づいて評価され、PJBLに規定された基準を満たさない場合、PPLにペナルティが課されます(みなし送電が原因の場合は除く)。ペナルティの種類には、AFまたはCEに関するもの、無効電力(VAR)に関するもの、周波数に関するもの、負荷変動率(ramp rate)に関するものがあります。

PJBLの終了 (Pasal 25)
PJBLは、契約期間の満了、契約不履行による一方的な解除、資金調達の失敗、PPLの破産または清算、不可抗力、その他PJBLで合意された条件によって終了します。遅延損害金が上限に達した場合、PT PLNはPJBLを解除する権利を有します。

権利譲渡 (Pasal 26-27)
原則として、発電所がCODに達するまで、PPLの株式譲渡は禁止されています。ただし、90%以上直接所有する関連会社への譲渡や、PPLの契約不履行時に融資者に認められるステップイン権に基づく譲渡は、PT PLNの書面による同意を得た上で可能です。地熱発電所の株式譲渡については、地熱分野の関連法規に従います。

価格と価格調整 (Pasal 28-29)
電力買取価格の調整は、税制、賦課金、環境関連費用、非税収入に関する義務の変更、またはPJBLで合意されたその他の条件の変更が発生した場合に可能です。最高基準価格を参照する再生可能エネルギー発電所の場合、調整後の価格は最高基準価格以下でなければならず、大臣の承認が必要です。最高基準価格によらない場合は、合意された価格に基づき、大臣の承認が必要です。地熱発電所の初期取引合意に価格が規定されている場合、地熱探査の結果と最高基準価格を考慮して価格調整が可能です。

紛争解決 (Pasal 30-31)
PT PLNとPPL間の紛争は、まず30暦日以内の協議による友好的解決を目指します。合意に至らない場合は、国内の裁判所または仲裁機関を通じて解決されます。仲裁による解決の場合、仲裁人の選任や手続きはPJBLに定められます。

不可抗力 (Pasal 32)
PT PLNとPPLは、不可抗力が発生した場合、その義務を免除されます。不可抗力には、戦争、内戦、火山噴火、火災、洪水、地震、パンデミック、伝染病、風土病、地滑り、自然災害、制御不能な事象、発電所または関連施設における危険物または歴史的遺物の発見などが含まれます。不可抗力は関係機関の決定に基づいて認定されます。大臣は、プロジェクトの技術的実行に関連するその他の事象を不可抗力と認定することができます。不可抗力によりCODが遅延した場合、または発電された電力が送電できない場合、PJBLの期間は不可抗力の期間と必要な修復期間に応じて延長される可能性があります。

国内製品の使用 (Pasal 33)
再生可能エネルギー発電所における国内製品の使用は、関連法規に従って実施されます。

環境属性または炭素クレジット (Pasal 34)
再生可能エネルギー発電所の環境属性または炭素クレジット(炭素クレジット、再生可能エネルギー証明書、グリーンラベル、その他の取引可能な権利、温室効果ガス排出削減による利益など)に関する権利は、関連法規に従って行使されます。関連法規がない場合は、当事者間の合意に基づき決定され、PJBLに明記されます。

リファイナンス (Pasal 35)
PPLは、再生可能エネルギー発電事業の最適化のため、融資者との間でリファイナンスを行うことができます。リファイナンスを実施する場合、PPLはPT PLNにその旨を通知する必要があります。

間欠性再生可能エネルギー発電 (Pasal 38-40)
間欠性のある再生可能エネルギー源(太陽光、風力、海洋エネルギー)を利用する発電事業者は、月次および年間のエネルギー生産量の予測をPT PLNに提出する義務があります。バッテリーまたはその他のエネルギー貯蔵設備を併設する場合、電力売買取引は、発電所と貯蔵設備の両方からのエネルギーに基づいて計算されます。PPLは、寿命を迎えたバッテリーまたはエネルギー貯蔵設備を、同等以上の新しい技術のものと交換する責任を負います。

監督と報告 (Pasal 41-45)
エネルギー鉱物資源大臣は、PJBLの実施と規定の遵守を監督します。PT PLNは、再生可能エネルギー源からの電力購入について、PJBL締結後5営業日以内に大臣に報告する義務があります。また、建設の進捗状況と国内製品の使用状況についても、CODまで6ヶ月ごとに大臣に報告する必要があります。

移行措置 (Pasal 48-50)
本規則の施行前に締結されたPJBLは、その期間満了まで有効です。ただし、延長する場合には本規則の規定が適用されます。本規則の施行前に開始された入札手続きについては、旧法規のPJBL規定が適用されます。本規則施行前に締結されたPJBLについても、追加契約により本規則の超過電力買取および発電所最適化のための電力買取規定を適用することができます。

既存規則の廃止 (Pasal 52)
2017年エネルギー鉱物資源大臣規則第10号とその改正規則は、本規則の施行により廃止されます。

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