マレーシアのCCUS法案

ESG

はじめに

今回はマレーシアのCCUS法(Carbon Capture, Utilization and Storage Act 2025、以下「CCUS法」といいます。)案について説明します。
CCUS法案を機械翻訳にかけてざっと調整したものを置いておきます。

CCUSとはなにか

CCUSとは、二酸化炭素(CO2)を排出源から回収し、利用または地中深くに貯留することで、大気中へのCO2排出量を削減する技術です。
地球温暖化の主要な原因であるCO2排出量を大幅に削減できるため、気候変動対策の切り札として世界中で注目されています。

マレーシアは、パリ協定に基づき、2030年までにCO2排出量を2005年比で45%削減することを目標としています。
この目標達成のためには、再生可能エネルギーの導入拡大だけでなく、CCUS技術の活用が大きな役割を果たすと思われます。

CCUS法案2025の概要

CCUS法案は、マレーシアにおけるCCUSプロジェクトの実施を法的に整備し、その促進を図ることを目的としています。
現在、2025年の施行を目指し、現在国会で審議されています。
本法案には、CO2の回収、輸送、利用、貯留に関する一連の活動を包括的に規制し、以下の主要な要素が含まれています。

マレーシア炭素回収・利用・貯留庁の設立

CCUS法案の中核となるのが、炭素回収・利用・貯留庁(以下「庁」といいます。)の設立です。
庁は、CCUSプロジェクトの監督、管理、許認可、技術指導など、幅広い役割を担います。
これにより、CCUSプロジェクトの実施における透明性と効率性が向上することが期待されます。

CCUS活動の許認可制度

CCUS法案は、CO2の回収、輸送、利用、貯留の各段階において、庁の許可または登録を義務付けています。
これにより、環境への影響や安全性を確保しつつ、CCUSプロジェクトの健全な発展を促進することが可能になります。

沖合および陸上貯留に関する規定

マレーシアは、石油・ガス開発で培った地質学的知見や技術を活かし、CO2の地中貯留に大きなポテンシャルを有しています。
CCUS法案では、沖合および陸上におけるCO2貯留に関する詳細な規定を設け、貯留場所の選定、安全性評価、モニタリングなどが義務付けられています。

二酸化炭素ストリーム受入基準

CO2を貯留する際には、CO2ストリームの品質(具体的には、CO₂の純度や含まれる不純物の種類・割合)が重要となります。
CCUS法案は、貯留に適したCO2ストリームの受入基準を定めており、貯留施設の安全性と長期的な安定性を確保することを目指しています。

閉鎖後管理基金の設立

CO2貯留施設の閉鎖後も、長期的なモニタリングやメンテナンスが必要になります。
CCUS法案は、閉鎖後管理基金を設立し、これらの費用を確保することで、将来世代への負担を軽減しようとしています。

注入税

貯留サイトの長期監視の費用に充当するため、沖合事業者(沖合地域において貯留サイトの運営を行い、貯留サイトを管理し、または貯留サイトの運営を管理する沖合貯留ライセンスの保有者)は注入税を支払う必要があります。

陸上貯留に関する義務の移転

陸上地域における貯留サイトの監視、是正措置、および是正措置に関する義務の移転は、州政府と協議の上、大臣が決定するものとしています。

執行体制の強化

CCUS法案は、違反行為に対する罰則を強化し、執行体制を整備することで、法規制の実効性を高めようとしています。

CCUS法案の各部における主要トピック

CCUS法案は、大きく分けて以下の10の部に分かれています。各部で扱われている主要なトピックについて、以下で簡単に説明します。
以下をざっとご覧いただいて、気になる条文を個別にご確認下さい。

第I部:序論

第I部では、法案の目的、適用範囲、用語の定義など、基本的な事項が定められています。
特に重要なのは、第4条の「解釈」です。
ここでは、CCUS法案で使用される主要な用語(「庁」、「炭素回収」、「二酸化炭素ストリーム」など)の定義が明確化されています。
これにより、法案全体の解釈における一貫性が確保されることになります。
また、第5条では、CCUSプロジェクトの実施において、国際的なベストプラクティスを参考に、環境保護と安全性を最優先とする原則が定められています。

第II部:マレーシア炭素回収・利用・貯留庁

第II部では、CCUSプロジェクトの推進母体となる「庁」の設立、構成員、機能および権限が規定されています。
庁は、CCUSプロジェクトの許認可、技術指導、調査研究、国際協力など、幅広い役割を担います。
庁の設立により、CCUSプロジェクトの実施における透明性と効率性が向上することが期待されます。

第III部:炭素回収

第III部では、炭素回収設備の登録要件が定められています。CO2を回収する設備を所有または運営する者は、本法案に基づいて庁に登録する必要があります。

第IV部:二酸化炭素の輸送および輸入

第IV部では、回収されたCO2の輸送および輸入に関する規定が設けられています。
CO2の輸送に関する安全基準や輸送方法、マレーシア国外で回収されたCO2の輸入要件などが定められています。
特に、マレーシア国外で回収されたCO2の輸入については、二酸化炭素ストリーム受入基準を満たす必要があることが明記されています。

第V部:二酸化炭素の利用

第V部では、回収されたCO2の利用に関する規定が設けられています。
CO2を利用する事業者は、庁に登録する必要があります。
この登録なしに事業を行うことは認められません。

第VI部:沖合地域における評価および永久貯留

第VI部では、沖合地域におけるCO2の評価および永久貯留に関する詳細な規定が設けられています。
沖合地域におけるCO2貯留プロジェクトの実施には、沖合評価許可および沖合貯留ライセンスの取得が必要です。
また、CO2ストリームの受入基準、運営上の義務、閉鎖および閉鎖後の義務、義務の移転などについても詳細に規定されています。

第VII部:陸上地域における評価および永久貯留

第VII部では、陸上地域におけるCO2の評価および永久貯留に関する規定が設けられています。
沖合地域と同様に、陸上地域におけるCO2貯留プロジェクトの実施には、陸上評価許可および陸上貯留ライセンスの取得が必要とされています。
また、CO2ストリームの受入基準、運営上の義務、閉鎖および閉鎖後の義務、義務の移転などについても規定されています。
ただし、陸上貯留に関する義務の移転については、州政府との協議が必要となる点が沖合地域と異なります。

第VIII部:閉鎖後管理基金

第VIII部では、CO2貯留施設の閉鎖後における長期的な管理に必要な資金を確保するための閉鎖後管理基金に関する規定が設けられています。
基金の構成、支出、投資権限、会計および報告などについて詳細に規定されています。

第IX部:執行

第IX部では、CCUS法案の執行体制について規定されています。
違反行為に対する罰則や、執行権限を有する公務員の権限などが定められています。

第X部:一般規定

第X部では、不服申立て、訴訟および法的手続に対する保護、免除権限、規則制定権限など、その他の一般規定が定められています。

CCUS法案の意義と課題

CCUS法案は、マレーシアが脱炭素化社会へ移行するための重要な一歩となるものです。
本法案の制定により、CCUSプロジェクトの実施が促進され、CO2排出量の大幅な削減、新たな産業の創出、雇用の拡大などが期待されます。
しかし、CCUS法案には、以下のような課題も存在します。

技術的な課題
CO2回収技術、貯留技術などは、まだ発展途上にあり、コスト削減や安全性向上などが求められます。

経済的な課題
CCUSプロジェクトは、初期投資や運営コストが高額になる傾向があります。
政府による財政支援やインセンティブ制度の整備が必要です。

社会的な課題
CO2貯留に対する国民の理解や信頼を得ることが重要となります。
こうした理解や信頼を得るため、透明性の高い情報公開や地域社会との対話が不可欠になってきます。

まとめ

CCUS法案は、マレーシアの脱炭素化戦略における重要な柱であり、その成功は、マレーシアの持続可能な発展に大きく貢献するものと思われます。
おそらくこの法案は議会を通過して法制度化されると思いますが、実際にCCUS設備が整うことになれば、日本にとっても大きな関心事となることが予想されますので、今後の進捗についは注目していく必要がありそうです。

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