目次
はじめに
今回はESGのGに関する内容として、インドネシア法務省の規則について取り上げます。
法務省(Ministry of Law、MOL)は、法人の受益者の確認と監督に関する2025年法務大臣規則第2号(The Minister of Law Regulation No. 2 of 2025 regarding the Verification and Supervision of the Beneficial Owner of Corporations、MOL Reg No. 2/2025)を2025年2月4日に施行しました。
これにより、法人の受益者に関する情報把握原則の実施に関する監督手続に関する2019年法務人権大臣規則第21号(The Minister of Law and Human Rights Republic Indonesia Regulation No. 21 of 2019 on the Procedures for the Supervision of the Implementation of the Principle of Knowing the Beneficial Owners of Corporations、MOLHR Reg No. 21/2019)は廃止されることになります。
そういえば、余談ですが、以前は法務人権省という1つの省庁が、法務と人権という、若干異なる2つの役割を有していましたが、昨年2024年に法務省と人権省にきれいに分かれることになりました。
施行の背景
MOL Reg No. 2/2025が施行された背景は以下のとおりだと考えています。
政府は、2018年、マネーロンダリングおよびテロ資金供与の防止および撲滅の枠組みにおける法人の受益者に関する情報把握原則の実施に関する2018年大統領規則第13号(Presidential Regulation No. 13 of 2018 regarding the application of the Know-Your-Beneficial-Owner Principle by Corporations for the Prevention and Eradication of the Criminal Acts of Money Laundering and Terrorism Financing、PR No. 13/2018)を施行しています。
PR No. 13/2018は、基本的に受益者に関する情報把握原則(Know Your Beneficial Owner原則、KYBO原則)を導入し、インドネシアのすべての法人に対し、受益者(Beneficial Owner、BO)を特定することを義務付けています。
BOの正確な情報をMOLに提出することにより、KYBO原則を実施してきたことになりますが、MOL Reg No. 2/2025は、以下の点がこれまでの規定と異なる点となります。
MOL Reg No. 2/2025の内容
以下、具体的にMOL Reg No. 2/2025の内容を説明します。
KYBO原則の適用範囲の拡大
MOL Reg No. 2/2025が施行されたことにより、KYBO原則がパートナーシップ形態にも適用されることとなりました。
従前、KYBO原則は、
(i)有限責任会社
(ii)財団
(iii)協会
(iv)協同組合
(v)有限責任組合
(vi)無限責任組合
にのみ適用されていましたが、適用対象が広がったことになります。
KYBO原則の実施
MOL Reg No. 2/2025は、KYBO原則の具体的な実施義務を規定しています。
具体的には、
(i)BOに関する情報の年ごとの更新
(ii)BOの文書管理
(iii)BOに関する質問票への電子的な回答
がその内容となっています。
BOの検証とリスク評価
BOの検証は形式的なものではなく、実質的なものとなります。
具体的には、マネーロンダリングやテロ資金供与に関するリスク評価に基づいて、関連する法人、公証人、MOL及びその他の関連する当局によって行われることなります。
法人に関するBOの検証は、
(i)その設立に関する情報を提出するとき
(ii)定款を変更するとき
(iii)法人の情報やデータを変更するとき
(iv)BO情報を具体的に更新するとき
にそれぞれ行われることになります。
なお、法人のリスクレベルに基づくオフサイトまたはオンサイト評価に関する以前の規則は削除されることになりました。
BO質問票
BO質問票への対応は、特定のBO基準に基づいており、以前は当該法人のみが行っていましたが、関連する公証人も実施できるようになりました。
データ分析
MOL Reg No. 2/2025は、MOLに対し、法務行政局長を通じて、法人から提出された情報及びBO質問票のデータ処理および分析をリスク評価に基づいて実施することを義務付けています。
この義務付けの目的は、法人から提出されたBOデータの正確性を確保することにあります。
BOのデータの正確性を検証するために、法務行政局長はBOに関するデータを調査することになります。
このデータに実態との不一致の兆候がある場合、当該法人に直接的又は間接的に説明を求めることができる、とされています。
直接的な説明については、役員を召喚すること及び/又は法人の施設への立入検査を実施することによって行うことができます。
間接的な説明については、文書を検討すること及び/又は情報を要求することによって電子的に行うことができます。
行政制裁
MOL Reg No. 2/2025には、BO情報を報告しない、又は、不正確なBO情報を提出した法人には行政制裁が課されることが規定されています。
行政制裁の内容は、
(i)警告
(ii)ブラックリストへの法人の掲載
(iii)AHU Onlineへのアクセスの遮断
の形で段階的に適用されることになります。
ただし、MOL Reg No. 2/2025は、MOLが段階的なプロセスなしに直ちに制裁を科す権利も留保しています。
なお、行政制裁の撤回は可能とされており、正確なBO情報を提出することにより、法務省に撤回してもらうことが可能です。
まとめ
今回はインドネシアにおけるBOの検証と監督に関する法務省規則について扱いました。
他国でも実質的所有者に関する補足の試みが進んでおり、インドネシアもこれに倣った形となります。
インドネシアでビジネス展開されている企業、ビジネス展開をされようとしている企業の皆様は是非ご参考下さい。
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