はじめに
今回はESGのSとGに関わる分野として、女性役員について考えてみたいと思います。
近年、ESG投資の重要性が増す中、取締役会における女性役員比率の向上が求められています。
多様な視点を経営に取り入れることで、イノベーションの促進やリスク管理の強化が期待されます。
日本の現状と政府の目標
内閣府男女共同参画局のデータによれば、プライム市場上場企業における女性役員比率は、2022年の11.4%から2023年には13.4%に増加しました。
しかし、政府が掲げる2030年までに30%という目標には、依然として大きなギャップがある、というのが現状かと思います。
また、東京証券取引所は、企業行動規範において、2025年までに女性役員を1人以上選任することを求めています。
国際的な比較
諸外国と比較すると、日本の女性役員比率は依然として低い状況です。
例えば、フランスでは2021年時点で45.3%、ドイツで36.0%、イギリスで37.8%と、日本を大きく上回っています。
これらの国々では、クオータ制の導入など法的規制を通じて女性役員比率の向上を図っています。
また、大手資産運用会社や機関投資家は、引き続き多様性の確保を重視し、企業に対して自主的な対応を求める姿勢を示しています。
一方、第2次トランプ政権下では、企業規制の緩和が進められており、多様性推進に関する政府の直接的な支援は限定的とみられています。
女性役員比率と企業価値の関係
大和総研の調査によれば、TOPIX500構成企業の中でも女性役員比率が高い企業ほど、ROEやPBR(株価純資産倍率)が高い傾向があることが指摘されています。
また、内閣府の報告によると、女性役員比率が高い企業はROE(自己資本利益率)やEBITマージンが高い傾向があるとされています。
これは、多様な視点を経営に取り入れることで、意思決定の質が向上し、企業価値の向上につながる可能性をあることを示すものとなります。
一方で、慶應義塾大学の研究では、2018年から2022年にかけて日本の上場企業を分析した結果、女性役員比率がROA(総資産利益率)に対して有意に負の影響を及ぼす可能性が示唆されています。
これは、企業の業務構造や役員登用の実態によって、短期的には業績に対する影響が異なることを示しています。
このように、女性役員比率と企業業績の関係は研究によって異なる結果が出ており、企業の特性や業界によって影響が変わる可能性があります。
そのため、各企業は自社の状況を踏まえた上で、女性役員の登用戦略を慎重に検討することが重要です。
提言
企業が持続的な成長を遂げるためには、以下の取組みが重要なのではないかと思われます。是非検討いただければと存じます。
社内女性リーダーの育成
女性社員のキャリアパスを明確にし、管理職候補としての育成プログラムを導入する、という方法が挙げられます。
成功事例として、A社は社内メンター制度を導入し、女性役員比率を3年間で2倍に増加させた例があります。
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)施策の推進
組織文化として多様性を尊重し、包括的な職場環境を整備することも考えられます。
目標設定と進捗の公開
女性役員比率に関する具体的な数値目標を設定し、その進捗を定期的に公開することも1つの選択肢です。
これらの取り組みを通じて、企業はガバナンス体制の強化とともに、投資家やステークホルダーからの信頼を高めることができます。
ESG経営を推進する上で、女性役員比率の向上は避けて通れない課題であり、積極的な対応が求められるのではないかと思われます。
まとめ
女性役員比率の向上は、単なる社会的責務ではなく、企業の持続的な成長と競争力強化に直結する要素だと考えています。
特に、ESG投資が拡大する中で、多様性を確保することは投資家からの評価を高める重要な要素となっていることから、政府の目標や国際的な動向を踏まえ、各企業は主体的に対応策を講じることが求められていると思われます。
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