目次
はじめに
2025年2月3日、経済産業省の調達価格等算定委員会が「令和7年度以降の調達価格等に関する意見」(以下「本意見」といいます。)を公表しました。
本意見書は、固定価格買取制度(Feed In Tariff、以下「FIT」といいます。)およびフィードインプレミアム制度(Feed In Premium、以下「FIP」といいます。)の改定を含み、特に屋根置き太陽光発電の新たな支援スキームへの移行や、10MW以上の輸入バイオマス発電の支援対象除外といった重要な変更が盛り込まれています。
この記事では、これらの変更内容を詳細に説明するとともに、政策変更の背景や影響について掘り下げます。
特に、企業が再生可能エネルギーの導入や電力調達を検討する際にどのような点を考慮すべきかについても解説します。
2025年2月3日付「令和7年度以降の調達価格等に関する意見」の内容
本意見の重要な点をまとめると以下のとおりです。
FIT・FIP価格の改定
2025年度以降、再生可能エネルギーの市場競争力向上を目的として、調達価格の引き下げが行われることになりました。これにより、以下のような改定が実施されます。
太陽光発電
住宅用(10kW未満)
19円/kWh → 18円/kWh
過去数年間の価格下落トレンドを考慮した調整であり、今後も市場価格の動向によってさらなる変動が見込まれる。
初期費用の低減が進み、家庭での導入が加速する可能性。
事業用(10kW以上50kW未満)
12円/kWh → 11円/kWh
商業施設や工場の屋根設置型の普及を促しつつ、FITからの脱却を意識した価格設定。
企業の自家消費の拡大を促進し、電力コスト削減に貢献。
風力発電
陸上風力(一般)
21円/kWh → 20円/kWh
風況の良い地域での大規模風力発電案件の採算性向上を意識した価格調整。
設備利用率の向上により、発電コストの最適化が進む見込み。
陸上風力(中小規模)
25円/kWh → 24円/kWh
小規模発電事業者の参入機会を維持しながら、FIT依存度を下げる狙いがある。
地域ごとの発電特性を考慮し、事業展開の幅を広げる施策。
バイオマス発電
一般木質バイオマス(国内資源)
24円/kWh → 23円/kWh
国内の林業活性化と併せ、適正な価格での市場運営を促進。
林業副産物の利活用を強化し、資源の循環利用を進める。
未利用木質バイオマス
32円/kWh → 31円/kWh
未利用資源の活用推進が継続されるものの、一定のコストダウンが求められる。
収益性向上のための新たな支援制度の創設が検討される可能性。
10MW以上の輸入バイオマス発電は支援対象外に(詳細は後述)
輸入依存を低減し、国内の持続可能なエネルギー供給を強化。
政策変更の背景
この政策変更の背景には、以下のような要因が考えられます。
市場競争力の向上
再生可能エネルギーのコストは近年大幅に低下しており、多くの国で市場競争力を持つようになってきているということができます。
この傾向を受け、日本でも支援制度を段階的に縮小し、市場主導での成長を促すことが可能となってきています。
特に、太陽光発電や風力発電の技術革新が進み、発電効率の向上とともにコスト削減が加速してきていることから、FITに依存しない持続可能な市場構造を確立することが重要な政策目標となります。
また、自然エネルギーの市場価格が成熟し、安定的な成長が期待される中で、再エネ事業者は市場競争の中で自立した経営を行う必要があるところ、価格変動リスクを管理しながら、新たなビジネスモデルを模索することが求められるものと考えられます。
具体的には、企業が自家消費型の再生可能エネルギーを活用することや、電力購入契約(Power Purchase Agreement、以下「PPA」といいます。)を利用することが考えられます。
エネルギー安全保障
現在、エネルギーの安定供給を確保するため、国内資源の活用を促進し、輸入燃料への依存度を低減することが求められているというのが現状です。
特に、中東情勢やウクライナ情勢など、近年の国際情勢の変化により化石燃料の供給リスクが高まる中、国内での再生可能エネルギーの生産能力を向上させることが重要になってきています。
国内資源の活用を進めることで、エネルギーの地産地消を実現し、地域経済の発展にも貢献が可能となります。
また、これは国レベルの安全保障というものではないですが、分散型エネルギーシステムの構築により、災害時の電力供給の安定性を確保し、長期的なエネルギー戦略の安定性を高めることが可能となります。
脱炭素と持続可能性
再生可能エネルギーの導入は進んでいるものの、現行の支援制度を今後も継続することが適切かどうかについて見直しが必要となっている、というのが現状かと思われます。
政府は、再生可能エネルギーの市場参入障壁を低減しつつ、持続可能な成長を促すため、今回のような新たなインセンティブ制度の導入を検討していると考えられます。
具体的には、CO₂排出削減の目標達成を加速させるため、既存の政策に加え、企業の脱炭素投資を促進するための補助金や税制優遇措置が強化される可能性があります。
また、再エネ設備の導入に関する規制の緩和や、系統の最適化による安定供給の確保が今後の政策の重点課題となるのではないかと思われます。
これらの変更は、再生可能エネルギー市場の健全な成長を促し、企業や家庭にとって持続可能なエネルギー供給を確保する重要な施策として位置づけられています。
屋根置き太陽光が「初期投資支援スキーム」に移行したことについて
支援スキームへの変更
本意見によれば、2025年度以降、10kW未満の住宅用太陽光発電はFIT制度から外れ、新たな「初期投資支援スキーム」に移行するようです。
この変更により、設置費用の補助が強化される一方で、売電による収益モデルは縮小されることになります。
背景と目的
この変更には以下のような背景・目的があると考えられます。
経済的持続性の確保
FIT制度は、再生可能エネルギーの普及を促進するために導入されましたが、その長期的な財政負担が課題と考えられていました。
特に、電力消費者が負担する再エネ賦課金の増加が問題となり、制度の持続性が疑問視される状況が続いていました。
今回の制度変更により、消費者がこれ以上負担することになる事態を緩和し、再生可能エネルギーの市場競争力を高めることで、持続可能な支援制度への移行を目指すものと思われます。
市場の競争力強化
これまでのFIT制度では、太陽光発電事業者が売電収益に大きく依存しており、市場原理に基づいた価格形成が十分に機能していなかったと指摘されています。
今回の変更では、発電事業者が自立した経営を行えるよう支援することが目的となっていると考えられます。
特に、住宅用太陽光発電では、余剰電力の売電よりも自家消費を推奨する方針が明確化され、電力の地産地消が強く求められるようになります。
家庭のエネルギー自給率向上
太陽光発電の主な用途を自家消費とすることで、電力需給の安定化を図ることが狙いとなっていると考えます。
自家消費型の太陽光発電を推奨することで、ピーク時の電力需要を抑制し、送電網の負荷を軽減することが期待されています。
これにより、エネルギーの安定供給が強化され、災害時の電力供給リスクの低減にもつながりますし、家庭用蓄電池との組み合わせにより、昼間に発電した電力を夜間に活用することが可能となり、エネルギー自給率の向上に寄与するものと思われます。
影響と今後の展望
この意向に対する影響と今後の展望は以下の通りだと考えています。
設備投資の増加
設置コストの補助が増えることで、太陽光発電システムの導入が促進されることは容易に予想されます。
特に、住宅や企業における初期投資の負担が軽減されるため、新規導入のハードルが下がり、多くの家庭や企業が太陽光発電の導入を検討しやすくなることは考えられます。
政府の補助金制度の強化により、短期間での投資回収が可能になるケースも増え、再生可能エネルギーの普及がより加速することが期待できます。
売電収益の縮小
FITの廃止により、売電価格の保証がなくなり、発電事業者は(これまで大小はともかく安定的に確保でた)利益の確保が難しくなるということは挙げられます。
その結果、売電を目的とした大規模太陽光発電事業の増加が落ち着き、代わりに自家消費を目的とした発電設備の導入が進んでいく可能性があります。
特に、余剰電力の売却よりも自社内での電力利用を最適化する方向へ舵を切る企業も増えるのでは、と予想されます。
蓄電池との併用増加
自家消費の最大化を図るため、家庭用蓄電池の市場が拡大する可能性もあります。
蓄電池は、電力の需給バランスを調整することで、停電時のバックアップ電源としても活用できるため、エネルギーの安定供給に貢献することが可能です。
中央・地方政府ともに蓄電池の普及促進策を打ち出しており、今後、家庭用および産業用の蓄電池の市場がさらに拡大していくことが考えられます。
特に、太陽光発電と蓄電池を組み合わせた「ゼロエネルギーハウス(ZEH)」の普及が進み、エネルギーの自給自足が可能な家庭や企業が増えることが予想されます。
10MW以上の輸入バイオマスを使った案件をFIT・FIPの支援対象から外したことについて
上記のとおり、政府は、2025年度以降、10MW以上の輸入バイオマス発電プロジェクトをFITおよびFIPの支援対象から除外することを決定しました。
背景と目的
エネルギー安全保障の強化
国内バイオマス資源の活用を促進し、海外依存度を下げることは、日本のエネルギー政策において重要な課題となってきています。
近年、エネルギー供給の不安定性が国際情勢の変化に影響を受けやすいことが問題視されており、安定した電力供給を確保するためには、国内で調達可能なエネルギー源を最大限に活用する必要があります。
国内のバイオマス資源を活用することで、輸入燃料への依存を減らし、エネルギー自給率を向上させるとともに、地域経済の活性化にも寄与すること、これが背景にあると考えられます。
CO₂排出削減
燃料の輸送過程で発生するCO₂を削減し、脱炭素社会を実現するためには、輸送距離の短縮が不可欠ですが、輸入バイオマス燃料は、海外からの輸送時に温室効果ガスを排出するため、その利用を減らすことは環境負荷の軽減につながります。
国内資源の利用を推進することで、全体としてのCO₂排出量を削減し、持続可能なエネルギー供給体制の構築が可能となります。
経済的合理性の向上
国内市場におけるバイオマス発電の自立を促進し、財政負担を軽減することは、長期的なエネルギー政策の持続性を確保する上で重要なポイントとなります。
FIT制度のもとでは、再生可能エネルギーの普及促進を目的として電力の固定価格での買取りが行われてきましたが、将来的には、市場メカニズムを活用してバイオマス発電を自立させる方向へ移行することが必要となります。
また、国内資源の活用が進めば、地域経済の発展にもつながり、エネルギー政策の安定性を確保することにも寄与することにもなりえます。
影響と今後の展望
10MW以上の輸入バイオマス発電プロジェクトがFITおよびFIPの支援対象から除外されたことについて考えられる影響と今後の展望は以下のとおりです。
発電事業者の戦略変更
10MW以上の輸入バイオマス発電プロジェクトがFITおよびFIPの支援対象から除外されたことにより、発電事業者は、今後進める予定のプロジェクトについて、燃料調達の見直しを迫られることになります。
発電事業者は、燃料価格の変動リスクが高まる中で、安定的かつ持続可能な調達戦略を構築したうえで今後のプロジェクトを進めていく必要があると考えます。
国内資源活用の推進
国内の未利用バイオマスの活用が進む可能性があります。
具体的には、林業や農業の副産物として発生する木材や有機廃棄物をエネルギー源として利用することで、エネルギーの地産地消が促進されることが見込まれます。
これは、地域経済の活性化にも寄与することになりますし、地方の林業や農業との連携強化により、新たなエネルギービジネスの創出が期待されることになります。
企業の電力調達戦略の変化
バイオマスから他の再生可能エネルギー源への移行が進む可能性があります。
具体的には、太陽光や風力といった発電コストの低下が進むエネルギー源への移行が進むのでは、と考えられます。
まとめ
本意見は、日本の再生可能エネルギー市場に大きな影響を及ぼし得るものと思われます。
特に、上で説明した屋根置き太陽光発電の支援スキーム変更や、10MW以上の輸入バイオマス発電の支援除外は、エネルギー業界や企業の戦略に直接関わる要素と考えられます。
今後は、本意見が実際にどのように反映されていくのか注視していく必要があるものと思われます。
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