目次
1. はじめに
2025年1月31日、マレーシア会社委員会(Suruhanjaya Syarikat Malaysia 、以下「SSM」といいます。)は、2024年改正会社法の段階的施行を発表しました。
マレーシア政府は、企業ガバナンスの強化と国際基準への適合を目指し、2024年に会社法の大幅な改正を実施しています。
この改正は、実質的支配者(Beneficial Owner、以下「 BO」といいます。)の報告義務化、企業救済メカニズムの強化、そして持続可能なガバナンスの推進を主な柱としています。
以下では、まず、SSMからのプレスリリースの内容を簡単に説明し、会社法の該当部分の改正内容の概要と、日本企業が留意すべきポイントについて解説いたします。
2. SSMからのプレスリリースの内容の要約
プレスリリースの概要は以下のとおりです。
(1) 施行スケジュール
改正会社法は2025年1月31日から段階的に施行され、完全施行は2025年12月31日を予定。
(2) 実質的支配者の報告制度
企業の透明性向上を目的とし、BOの報告が義務付けられる。
(これは、企業の透明性を高め、マネーロンダリングやテロ資金供与の防止を目的としています。)
(3) 企業救済メカニズムの強化
財務的困難に直面する企業が再建を行いやすくするため、クロスクラス・クラムダウン制度やプレパック・スキームを導入。
(財務的困難に直面する企業の再建を支援するための法的枠組みを提供することを意味します。)
(4) 持続可能なガバナンスの推進
企業の取締役に対する義務の明確化やESG要素の経営判断への組込みが推奨される。
(企業のガバナンス手続を見直し、持続可能な運営の促進を目指します。)
以下では上記の(2)から(4)について、2024年改正会社法の内容を説明します。
3. 実質的支配者に関する改正会社法の概要
改正会社法では、BOの定義と報告義務が明確化されました。
BOとは、「会社を最終的に所有または支配する自然人」を指し、具体的には以下の基準で特定されます。
- 直接的または間接的に会社の株式の25%以上を保有する者
- 会社の議決権の25%以上を直接的または間接的に支配する者
- 会社の取締役会の構成に影響を及ぼす権限を持つ者
- その他、会社の経営や方針に実質的な影響力を持つ者
全てのマレーシア登録企業は、BOを特定し、SSMの電子システム(Electronic Beneficial Ownership System、以下「e-BOS」といいます。)を通じて報告する義務があります。
報告された情報は非公開とされ、主に法執行機関や規制当局がアクセス可能です。
報告義務を怠った場合、罰金などの制裁が科される可能性があります。
4. 企業救済メカニズムに関する改正会社法の概要
2024年改正会社法では、財務的困難に直面する企業の再建を支援するため、以下の企業救済メカニズムが強化・導入されました。
(1) 保全命令制度の改正
企業が再建計画を策定・実行する間、債権者からの法的措置を一時的に停止する「保全命令」の適用範囲と手続きが見直されました。
(2) クロスクラス・クラムダウンの導入
クロスクラス・クラムダウンは、企業再建計画において、一部の債権者が反対しても、裁判所の承認があれば計画を強制的に適用できる制度です。
異なる種類の債権者グループ間で意見の不一致がある場合でも、裁判所の承認を得て再建計画を強制的に実行できることになりました。
これにより、少数の債権者の反対による計画の頓挫を防ぎ、より円滑な再建を可能にします。
(3) プレパック・スキームの導入
プレパック・スキームは、事前に主要な債権者との合意を得た上で、迅速に再建計画を裁判所に提出し承認を受ける手続です。
事前に主要な利害関係者との合意を得た上で、迅速に再建計画を裁判所に提出・承認を得る手続きが導入されることになりました。
これにより、企業の再建プロセスが迅速化され、倒産手続の長期化を防ぐことが可能となります。
5. 会社の持続可能なガバナンス強化に関する改正会社法の概要
2024年改正会社法では、企業の持続可能なガバナンスを推進するため、以下の点が強化されました。
(1) 取締役の義務と責任の明確化
取締役の忠実義務や注意義務が明確化され、企業の長期的な持続可能性を考慮した経営判断が求められます。
(2) 環境・社会・ガバナンス(ESG)要素の考慮
企業は、経営判断において環境、社会、ガバナンスの要素を考慮することが推奨され、持続可能な経営の実現が促進されています。
(3) 情報開示の強化
企業は、財務情報だけでなく、非財務情報(ESG関連情報)の開示を求められるようになり、ステークホルダーとの透明性の高いコミュニケーションが求められます。
6. 日本企業が留意すべき点
上記を踏まえ、日本企業が留意すべき点は以下のとおりです。
(1) 実質的支配者の報告義務
日本企業のマレーシア子会社は、BOの報告義務を履行する必要があります。
(2) 企業救済メカニズムの活用
財務的困難に直面した場合、新たな手続を活用することで迅速な企業再建が可能となりますので、この選択肢があることに留意しておくことが望ましいです。
(3) ESG経営とガバナンスの強化
マレーシアの子会社が適切にESG情報を開示できる体制を整える必要があります。
(4) コンプライアンス違反のリスク
実質的支配者の未報告や虚偽報告、ガバナンス規定の未遵守があった場合、罰金や制裁措置の対象となる可能性があります。
7. まとめ
2024年改正会社法は、マレーシアにおける企業の透明性向上や経済の安定的な成長を目的としており、現地の日系企業にも影響を及ぼします。
今回、SSMが2024年改正会社法の施行を段階的に行うとしたことから、実質的支配者の報告義務、企業救済メカニズムの新設、持続可能なガバナンスの強化など、マレーシアで事業を行う日本企業は、新たなコンプライアンス対応の準備を進めるとともに、今後の改正法の施行スケジュールをよく確認しておく必要があります。
特に2025年1月31日、3月31日、12月31日の3つのフェーズで異なる改正が適用されるため、施行時期に合わせて対応していく必要があります。
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