はじめに
インドネシア金融サービス庁(OJK)が、国内のシャリア銀行セクターを強化し、その規制の一貫性を高めることを目的に、2024年10月に新たなガイドラインを発表しています。
このガイドラインは、シャリア銀行の特徴を明確にし、従来の銀行サービスとの差別化を図ることを目的としています。
対象となるのは、
- 「ムダラバ融資商品( Mudarabah Financing Product (MFP))」
- 「シャリア制限付き投資口座(Sharia Restricted Investment Account with Akad Mudharabah Muaqayyadah (SRIA))」
- 「現金ワクフ連動型預金(Cash Waqf Linked Deposit (CWLD))」
という3つの主要な商品です。
これらのガイドラインは、これまで一般的な法律の枠組みの中で規定されていたシャリア銀行商品に対し、より具体的で詳細な運用指針を提供するものです。
以下それぞれ説明します。
MFP
まず、MFPは、シャリア契約であるムダラバに基づく利益共有型の融資商品です。
この契約では、銀行が資金提供者として事業活動のための資金を顧客に提供し、顧客がその資金を運用して得た利益を、あらかじめ合意された比率で銀行と分配します。
この商品の独自性は、固定金利ではなく、実際に得られた利益に基づいて分配が行われる点です。
銀行は日常の事業運営には関与しませんが、顧客の事業活動を監督し、必要に応じて指導を行う役割を担います。
また、契約内容には、資金の使途や利益分配の仕組みが明確に定められ、固定利益率や収益予測に基づく分配が認められないなど、シャリア原則に厳格に基づく運用が求められています。
SRIA
次に、SRIAは、ムダラバ契約の一種である「ムダラバ・ムカイヤダ」に基づく投資商品です。
この契約では、顧客が投資者として銀行に資金を提供し、銀行がその資金を運用する形で利益を分配します。
SRIAの特徴は、投資リスクを顧客が負担し、銀行が元本保証を行わない点にあります。
また、投資対象となる資産は、シャリア原則に適合している必要があり、対象とする取引や資産の種類が厳格に制限されています。
さらに、銀行には顧客保護の観点から、運用資産やリスクについての情報を適切に開示する義務が課されています。
これには、運用実績や資産の構造に関する詳細な報告書を顧客に提供することが含まれます。
CWLD
最後に、CWLDは、シャリアのワクフ(寄付)制度を応用した商品です。
この商品では、顧客が銀行に現金を預け、その資金が慈善目的で運用されます。
具体的には、顧客が寄付した資金を元に得られる利益が、宗教的または公共の利益に資する形で分配されます。
この商品を提供するためには、銀行が「現金ワクフ受託機関(Lembaga Keuangan Syariah Penerima Wakaf Uang (LKS-PWU))」のライセンスを取得する必要があり、シャリア原則に基づいた運営を徹底することが求められます。
まとめ
OJKの新しいガイドラインは、これらのシャリア銀行商品の運用における透明性と一貫性を高めるだけでなく、銀行と顧客双方にとって信頼性の向上をもたらします。
また、このガイドラインは、2023年に制定された「金融セクター開発強化法」(Law Number 4 of 2023 on the Development and Strengthening of the Financial Sector)や「シャリア銀行ロードマップ2023-2027」(The Roadmap for Sharia Banking (RP3SI) 2023-2027)といった政策とも連携し、インドネシアのシャリア金融セクターのさらなる発展を目指すものです。
具体的には、シャリア原則に基づいた金融商品が従来の銀行商品とは異なる競争優位性を持つことを示し、国内外の投資家や顧客からの関心を引き寄せることが期待されています。
この新しい規制枠組みにより、インドネシアのシャリア銀行セクターは、グローバルなイスラム金融のベストプラクティスに準拠した運営を実現し、国際的な競争力を高めることが可能になります。
これらの取組みは、インドネシアをシャリア金融のハブとして位置づけるとともに、より多くの投資家や顧客を引きつける基盤となるものと考えられます。
また、イスラム金融はESGに親和性があると言われており、この点についてはまた別途に投稿したいと考えています。
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